2016/08/26
さて六朝時代の「五辛盤」は唐代になると「春盤」と呼ばれるようになり、この「春盤」には必ず薄い小麦粉の皮を盛り合わせて、生野菜をこの皮で巻いて食べるようになったことから、この皮を「春盤の餅ぴん」つまり「春ちゅん餅ぴん」と呼ぶようになりました。中国語の「餅ぴん」は日本語の「もち」とは違い、小麦粉を練って作った食品を広く指す言葉です。また「春ちゅん餅ぴん」は今日「薄餅ぱおぴん」と呼ばれており、北京ダックを包む小麦粉の薄い皮を指しますから、「薄餅ぱおぴん」と言った方が解りやすいかもしれません。ただ、どのように作るのかはあまり知られていませんから、ここでその作り方をご紹介しておきましょう。
- 強力粉に熱湯を加えて、耳たぶ位の柔らかさに練っておく
- これを棒状にのばして2cm程度に切り分け、手で押して5cm程度の円形にする
- 2)の片面に胡麻油を塗り、油を塗った面を合わせるようにして2枚を重ねあわせる
- 3)を麺棒でシワがよらないように円形に延す
- 4)を空鍋に入れて弱火で煎ると少し膨らみ始めるので、焦げない内に上下を反転させて両面を乾煎りする
- 5)が膨らんでくれば鍋から取り出し、すばやく手で叩いて中の空気を出し、2枚に離す
このように2枚の生地を張り合わせて薄く延ばし、焼いた後に2枚に離せば、延ばした厚みの半分の厚さになりますから、非常に薄い「餅ぴん」となる訳です。
六朝時代の「五辛盤」は生ニンニクなどの辛味の強い野菜を食べて邪を払う風習でしたが、唐代になるとこれをもっと食べやすいものに改良し、ニンニクをはじめとする「五葷」以外の野菜も自由に取り入れて、「春餅」で巻いて食べるようになりました。さらに清朝時代になると肉類を加えてより美味しい料理に作り変えています。『帝京歳時紀勝』には「新春の日に春盤を献ず、あに士庶の家にてもまた必ず鶏豚を割かんや、麺餅を炊ぎ、まじえるに生菜、青韮芽、羊角葱を以ってし、冲して菜皮を和合す。兼ねるに水紅蘆蔔を生にて食し、名づけて咬春という」と述べられ、『清稗類鈔』には「春餅は唐すでにこれ有り、麺を捶うちて極めて薄くせしめて熯かわかし熟す、すなわち「炒肉絲」を中に置き、巻きてこれを食す」とあって、要するに「薄餅ぱおぴん」でチシャ、韮、羊角葱(分葱の芽?)、肉の細切り炒めなどを混ぜ合わせたものを巻いて食べるのだと言っています。またこれと一緒に生大根を食べるのが決まりだったようで、大根のシャリシャリした歯ざわりが早春の薄氷に似ていたためでしょうか、これを洒落た言い方で「咬春」と呼んだそうです。