2016/08/26
清朝時代には立春の日に「春ちゅん餅ぴん」を食べたと伝えられています。「春餅」とは小麦粉で作った薄い皮に芽吹いたばかりの春野菜や肉の細切り炒めなどを包んだもので、春の芽吹きを寿ぐ趣ある風習でした。残念ながらこの風習は廃れてしまいましたが、「春餅」を油で揚げた「春巻」は今でも人気が高い点心として日本でもよく知られています。ただし「春巻」は今や一年中売られている季節感の無い食べ物になってしまったので、その名前の由来もすっかり忘れられています。
さて「春餅」の来歴は唐代に遡るといわれています。『中国麺点史』に引く『四時宝鏡』には「立春の日、蘆蔔、春餅、生菜を食して、春盤と号す」とあり、『関中記』には「唐人立春の日に春餅を作る、青蒿、黄韮、蓼芽を以ってこれを包む」とあるように、もともと「春餅」とは小麦粉で作った薄いクレープ状の皮のことを言い、これに春野菜を包んだものを「春盤」と称していたようです。またどんな春野菜を包んだのかについては諸説あり、一説には六朝時代、元旦に食べられていた「五辛盤」に由来する5種類の匂いの強い野菜「五葷」のことだとも言われています。
「五葷」とは5種類の「生臭もの」つまりニンニクのように匂いの強い野菜のことですが、仏教と道教ではその内容が少し違っており、仏教では大蒜(ニンニク)、小蒜(ラッキョウ)、興渠(アギ、ウイキョウの仲間でインド中央アジア原産)慈葱(エシャロット)、茖葱(ギョウジャニンニク)の5種、道教では韮(ニラ)、薤(ラッキョウ)、蒜(ニンニク)、芸薹(アブラナまたはカラシナ)、胡荽(コリーアンダー)の5種とされています。アギは日本に自生しないのでどのような匂いなのか解らないのですが、ニンニクやラッキョウ、葱などがそうであるように、「五葷」は匂いが強く生で食べると辛味の強い野菜や山菜です。おそらく「五辛盤」はこれらの野菜を生で盛り合わせた料理であり、今で言えばサラダということになるでしょう。ただし、生のニンニクなどは非常に辛く美味しいものではないので、「五辛盤」には辛いものを食べて邪を払うという意味合いもあったのではないでしょうか。また漢方の考えでは、春に辛味の強い物を食べることは「肝」の働きを強化して健康によいとされており、「五辛盤」は一種の健康食品でもあったのです。