No.42 元宵節の食べ物「元宵」

私が六本木四川飯店で修行していた頃、1月になると決まって胡麻団子や小さな白玉団子を作ってデザートに出していました。胡麻団子はオレンジや冬瓜の蜜煮、砂糖やラードなどを黒胡麻に加えて餡にし、これを白玉粉の生地で包んだものです。これをよくボイルして、温めたお湯に浮かべたものを「湯圓」と呼びます。また小さな白玉団子の方は「小湯圓」と呼ばれ、5㎜ほどの団子を湯がいてシロップに浮かべたものです。時にはもち米で作った甘酒をシロップに加えることもあり、こちらは団子に餡が入っていないので必ず甘いシロップに浮かべて出します。その頃の四川飯店ではこれにミカンの缶詰を入れるのがお決まりでした。ミカンの缶詰が貴重だという時代でもなかったので、入れないほうが上品なのにと思いながら作っていましたが、後になって「湯圓」は旧正月の十五夜「元宵節」に食べる風習があることからこの団子を「元宵」とも呼んでいることや、「小湯圓」のミカンもミカンの総称「橘」が「桔」と書かれる事から「大吉」の縁起をかついだ正月の食べ物だと知りました。台湾の民謡に「一碗湯圓満又満、吃了湯圓好団圓」というのがあるそうですが、「湯圓」が丸々として満ち足りた満月のような姿であることや、「湯圓」が一家団結を表す「団圓」に通じることから、正月の十五夜に縁起のよい食べ物として欠かせないものだったのです。

辛亥革命で清王朝が倒れ、中華民国初代大統領に袁世凱が就任したその年の1月、突如「元宵」は今後「湯圓」または「粉果」と呼ぶようにという通達が出されたそうです。自らが皇帝となって帝政を復活させようと企てていた袁世凱は町中いたる所で「元――宵」と長く伸す胡麻団子の売り声を聞き、これは「元宵」に「袁消」つまり「袁世凱を消せ」と言う意味を込めた悪意だと勘ぐったのですが、このばかげた通達が民衆のお笑い草となり、反袁運動はますます高まったと言われています。

かつての日本人は闇夜を照らす月に隠された人の心中を見通す霊性を直感し、月は何もかもお見通しだという月への畏敬や信仰を持っていました。昭和の古い歌謡曲に「月は知ってるおいらの意気地」という歌詞があったように覚えていますが、日本人の月に対する特別な思いは一昔前まで確かに息づいていたのでしょう。私が子供の頃、十五夜になると竿に針をつけて隣の家の月見団子を盗みに行くという行事?がありました。今ではとんでもないと言われるのでしょうが、縁側では隣のおばさんが待っていて「もっと持って行ったら」などと笑われたものです。昔の子供はよく月を眺め月と遊び、親に「お月様に見られているよ」などとも言われたものです。袁世凱と「元宵」の逸話は言葉のくい違いから来るいかにも中国らしいお話しですが、袁世凱の末路をお月様はやはりお見通しだったということでしょうか。

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